LOGIN今日はわたしと依子さんの誕生日パーティーです。
昼間は前の職場で頼まれていたゆきちゃんの件のお仕事があって出かけていたのですが、今頃ゆきちゃんはわたし達のために腕を振るって料理を作ってくれていることでしょう。その愛情がいっぱい込められた数々の絶品の品のことを考えると今からもう楽しみで仕方ありません。
味が美味しいのはもちろんですが、わたし達が美味しいと言った時のゆきちゃんの嬉しそうな顔が可愛くて、もうたまらないんです。でもそれ以上に嬉しいのは、心からわたし達の誕生日を祝ってくれているのが伝わってくることでしょうか。
本当に楽しそうに料理を作る姿。 普段のお仕事が忙しいせいで疲れているはずなのに、今日も朝早くから起きて仕込みをしていました。 そして手の込んだ飾りつけも本当の心が籠っていて、とても丁寧に飾ってくれているんです。 元々手先の器用な人ですから、一生懸命作ってくれたであろう飾りは本当に芸術物です。 わたしにとってはラオコーンの群像にも引けをとりませんとも「おめーらがうかうかしてる間にゆきの愛人は六号まで埋まっちまったぞ」 より姉にチクられた。「どういうことか」「説明してもらえる?」 聞くや否や詰め寄ってくる文香と穂香。 久しぶりに見たよ阿吽の呼吸。さすがはわたしの金剛力士様。 ちょちょ。表情が怖いよ。本当に仁王様になってるから。「なんかね、わたしが何も関与しないままにみんなが勝手に愛人を名乗っていって、気が付いたらそんな数字になってたの」 何を言ってるのかよく分からないけど、本当にそうなんだから他に言いようがない。「それですでに六人も」「さすがというかなんというか」 感心されても困ります。「それじゃ、七号は元副会長に譲るか」「穂香は八号でいいの?」「ラッキーセブンと末広がりで縁起がいいね。あははは」 もうこうなったら笑うしかない。 土砂災害で濁流にのみ込まれてしまったような気分だけど。「全員を孕ませたらサッカーチームが作れるな」 チクった本人が何を呑気なこと言ってるんだ。一人補欠じゃねーか。「え、愛人って子供を産む権利もついてくるの?」「その権利は是非行使したいね」 そんなわけねーだろ。 嫁だけでも四人いるのにその上愛人まで孕ませるとかどんなクズやろーだよ。「二人ずつ作れば対戦もできますね」 かの姉は何言ってんの?「主審と副審もつく」 あか姉まで。確かに人数的にはちょうど合うけどさ。「絶倫だとは思っていたけど、そこまでとはね」 いや、干からびるわ。 ひよりはなぜ昔からわたしを絶倫と決めつけているんだろう。「バカな事ばかり言ってると今度のコラボに二人も参加させるよ」 かつてわたしと三人でダンスを披露したこともある二人。 息も合ってて上出来だったんだし、もう一度あの感覚を味わうのも悪くない。いつも一人だからね。「もうあんな風に体が動か
一年後にアメリカ横断ツアーをすることが正式に決定した。 その後にヨーロッパ遠征も決まり、今いくつかの国での交渉がすでに進んでいる。上手くいけばアメリカに続いてすぐにヨーロッパツアーを組むこと下出来そうだ。 人生という限られた時間の中で、できることなら早いうちにいろんなことを経験しておきたい。 それは生き急いでいるわけじゃなく、世界が広すぎるから。 アジアの各地も回りたいし、中東や南米なんかも行ってみたい。アフリカは治安の問題もあって未知数だけど。 まだ若くてわたしの商品価値が高いうちに世界を回ろうと思ったらスケジュールは詰めていかないと到底間に合わない。 まだまだ日本でもコンサートはやりたいし、アメリカやヨーロッパも一度だけで終わらせるのはもったいない。どちらも広いから一度で全土を回るなんて不可能だし。「今のところ日本の人気が高いフランス、イタリア、ドイツはほぼ決定ですね。でもどうせならあと何か国は回っておきたいでしょう」 五代さんがスマホでヨーロッパの地図を出しながら、開催国の目星をつけていく。「うーん、イギリスは外せないでしょ。あとギリシャにも行きたいし、スイスなんかもいいよね」「ヨーロッパと一言で言ってもかなりの国があるんだから、ある程度は絞らないと」 放っておいたらEU加盟国全部を回ってしまいそうな勢いに、ひよりが待ったをかける。 わたしは都合さえつくなら全部回ってもいいんだけどね。「さすがにEU全土を制覇しようと思ったら一年くらいかかりますよ。お子さんもいることですし、一か月程度で帰ってこようと思ったらあと三か国くらいが限度だと思いますよ」 一年もかかるなら子供は連れていくけどね。いっそ二年くらいあっちに住んでしまった方が速いかも。「今子供を連れて行くのもアリみたいなこと考えてるんでしょ。ダメだよ。日本にもファンはいっぱいいるんだから。一年も日本を留守にしたら日本のファンからクレームが来るよ」 それもそうか。海外進出ということで少し舞い上がっていたようだ。 ちょっと落ち着けわたし。「それじゃ、
ひよりとの子供が産まれ、半年ほどは仕事量をセーブした。 四人もママがいるのだから必要ないとは言われたものの、わたしも育児に参加したかったから。 今までの五人にもう一人増えてずいぶん賑やかになったけど、以前と変わらず温かい家庭は続いている。 お父さんとお母さんはもうすでに孫馬鹿ぶりを発揮していて、休みの日に孫と一緒に散歩するのが趣味になってしまったようだ。あれだけ忙しく休日出勤もしていたのに、最近ではしっかり休日を取るようになったほどだ。その分普段の帰りは前より遅くなったけど。 今日も二人して休みを取って、ずっと孫にべったりだ。「ゆきさん、お仕事をセーブしてるところ悪いんですが、ちょっと大きなオファーが入ってしまったのでなんとか受けてもらえませんか」 ひよりが退院してから連日のようにうちを訪れていた五代さんがとても申し訳なさそうな顔をしながらお仕事の話をしてきた。 ほとんど毎日来てたのに、しっかり仕事はしてたんだな。いつの間に。 出来る女は努力してる姿を見せないものなのか。白鳥のように。いつかその足元を覗いてやりたいけれど。「そろそろ育児も落ち着いてきたし、お仕事を頑張ろうと思っていたタイミングだったので大丈夫ですよ。それで、どんなお仕事ですか?」 もう既に保育園の申し込みも済ませ、後は抽選結果を待つだけだ。 わたし達の住む市はそこまで待機児童が多いわけでもないので、さほど待つことなく入園させることが出来ると思う。 そしてもうひとつ、お母さんが仕事で第一線を退き、意見役というか相談役のようなポジションに代わり、パートタイマーのような時間制で働くことを決意したそうだ。 わたし達も全員手を離れ、今までのようにあくせくお金を稼ぐ必要もなくなったことと、一番は孫と一緒にいる時間を増やしたという理由かららしい。まったく。 うちの子はパパっ子ママっ子になってほしいんだからおばあちゃん子にはさせないでよね。 そんなわけで本格的に仕事の方をスタートさせようとしていたタイミングだったので、オファー自体はありがたかったんだけど、さすがにその依頼元には驚いた。 なんとア
不織布で作られた使い捨てガウンを身につけ、わたしは緊張で身を固くする。 ハッキリ言ってプロポーズの時よりも。 特に自分が何かをするわけじゃないんだけど、何もできないからこそ余計に緊張することもあるんだな。「もう、悠樹さんが緊張してどうするの。パパになるんだからどっしり構えてて」 分娩台に横たわり、痛みに顔を歪めながらも笑顔を向けるひよりの健気さに、男という生き物の無力さを痛感してしまう。 額ににじむ汗を拭いてあげながら、せめて目を背けず最後まで見届けようと決意。「そんな顔しないで。そばにいてくれるだけでこんなにも力強い気持ちになれるんだから。ありがとう」 一番大変なのは自分なのに、こちらのことまで気遣う優しさに胸が熱くなる。「わたしの事はいいから、今は自分の事と赤ちゃんの事だけ考えて。わたしにできることがあるなら何でも言ってね」 男には一生分かってあげることのできない痛みだけど、例え話では鼻からスイカを出すくらいの痛みと聞いたことがある。 例えた方が分からなくなるってどういうことだ。 ありえないくらい痛いってことを表現したいんだろうけど、本当にありえないことを例えに出されても余計に混乱する。 でもとにかく痛いんだということだけは理解できるので、背中を優しくさすってあげた。「ありがとう。触れられているととても安心する。でも陣痛が来た時は痛みが響くから離してくれる?」「うん、わかった。他にしてほしいことはある?」「汗が流れると気持ち悪いから拭いてほしいかな」 今まで経験したことがないほどの痛みだろうに、それでもわたしには笑顔を向けてくる。泣き笑いのようなその表情に、わたしの胸はさらに締め付けられる。「もうすぐ産まれるのかな。だんだん陣痛の間隔が……短く……なって……!」 またしても痛みの波がやってきたのか、苦痛に顔を歪めるひより。 背中に当てていた手を離し、すぐに額や首筋ににじんでくる汗をなるべく優しく、丁寧にふき取ってあげる。 わたしの目から見て絶えず苦しんでいるん
地方都市に限定した日本全国縦断ツアー。 人口が少ないところを選んで敢行したため、当初は空席が出るんじゃないかという懸念もあったけど、結果的には販売開始と共にソールドアウトの大盛況となった。 その都市の住人だけでなく、近隣や中には遠方からでも来る人がいたので、わたし達の密かな目的でもあった町おこしという点でも大成功だったと言っていいだろう。 ツアーの合間に観光として地元のいろんなお店に入ったり観光名所を訪れて写真をSNSにアップしたので、訪れた場所が聖地扱いとなって観光客が増えたという報告もあった。日本にはまだみんなが知らないだけで、素晴らしい場所はたくさんあるんだよ。 山形なんてほとんどの人が首を傾げるけど、|宝珠山立石寺《ほうじゅさんりっしゃくじ》は松尾芭蕉が「閑さや岩にしみ入る蝉の声」と詠んだ由緒あるお寺だし、戦国武将の上杉謙信を祀った寺社もある。出羽三山には羽黒山五重塔という国宝が鎮座していて、2026年は「|羽黒山午年御縁年《はぐろさんうまどしごえんねん》」といって十二年分のご利益があるとされてるんだよ。 そうやって訪れる都市のいろんな魅力を探していくのは楽しかったし、その土地の人々と交流するのも有意義だった。県民性というのは本当にあるもので、行く先々でいろんな発見があったから。 全員がそうだってわけじゃないけど、新潟の人は厳しい冬に耐える歴史を送ってきたからか、忍耐強く、真面目で堅実というイメージ。豪雪地帯であるにもかかわらず、日本有数の米どころとしてコツコツと積み重ねてきたからか、努力を惜しまない堅実さがあったように思う。 その反対側の静岡はのんびりしていて温和という印象。昔から東海道の要所として栄えてきたからか、あくせくした雰囲気がなく、のんびりしていて開放的なのは旅人相手に商売をしてきた影響だろうか。 そういった地方の違いというのはコンサートでの反応にも表れていて、比較的大人しいこともあれば真面目そうな人々が熱狂的に盛り上がって一緒に楽しめることもある。その違いがまた楽しい。 海外に旅行すれば人生観が変わるというけど、日本全国を旅するだけでも十分に価値観を変えられるんじゃないだろうか。 「今日は盛り上がったなー」 愛媛での最終日を終えて、観光前のホテルでのひと時。そこでみんなと今回の感想を述べあっていたんだけど、コンサート
結局、ツアーは山形、金沢、静岡、京都、鳥取、愛媛、宮崎で行うことになった。 前回は全国五都市での開催だったのが、今回は七都市。 日程が前回より長くなったのは当然だけど、やはり地方都市だけあって大人数を集められるだけの箱がなくてほとんどが野外コンサートになってしまった。 どこまでも広がる空の下、声を大にして唄うなんて初めての事なのでとても楽しみ。 お願いだから前回みたいに停電トラブルは勘弁してほしいけど。さすがに音響も何もない露天で隅々まで声を響かせるなんて不可能だし。「ツアーが終わるころには暑くなりそうだな」 キャリーバッグを片手に二階から下りてきたより姉が椅子に腰かけながら言う。「ひよりのお腹も大きくなってくるのかな?」「それくらいではまだ目立つほど大きくなりませんよ。予定日は来年の春ですから、人によりますけど妊婦だと服の上からでも分かるようになるのは年が開けてからじゃないですか」 わたしの質問にかの姉が答えてくれた。 いくらこんな見た目をしていても、女の人の体にまで詳しくないわたしには新しい事ばかり。 お父さん教室とかにも参加した方がいいのかな。「ゆきはなんでもできるから心配ない」「いくらわたしでも知らないことは勉強しないとできないよ。これから時間を見つけては調べていかないと」 あか姉の信頼は嬉しいけど、わたしだって最初から何でもできるわけじゃない。人間離れしてる面があるのは認めるけど、それでも基本は人間なんだから。 そんな話をしていると、ひよりの部屋から物音が聞こえてきたので二階に上がった。「ひより、準備できたー?」「あれ、ゆきちゃん? どうしたの?」 不思議そうな顔でわたしを見てくる。やれやれだ。 自分の身体がどういう状況なのか自覚を持ってほしい。「荷物重いでしょ? 重いものを持たせるわけにはいかないからね」 妊婦に重いものを持たせてはいけないと書いてあった。ましてやまだ安定期にも入っていない妊娠初期。流産する危険性が比較的高い時期らしい。「いくらなんでも過保護すぎだよ。これくらいの重さならどうってことないよ」「そんなこと言って何かあったらどうするの! 用心するにこしたことはないんだから」 なんで妊娠してる本人がこんなに呑気なんだろう。「少しは動かないとダメなんだよ。無理は禁物だけど、軽い運動程







